『今様薩摩歌』
こんばんは。『今様薩摩歌(いまようさつまうた)』という
狂言名題を書かせて頂きました。以前に『薩摩訛情諷』という狂言を
書かせて頂いた折、“この演目はどのような内容ですか”というコメントを頂戴
しましたので、その回答(答えになってなければ申し訳ないですが)と
それに絡んだ内容のものを今回は選んでみました。
『今様薩摩歌』
岡鬼太郎作。大正九年(1920)、10月東京・新富座で、
菱川源五兵衛=二世市川左団次、笹野三五兵衛=二世市川猿之助
(後の猿翁)、おまん=二世市川松蔦などで初演。
豪毅一方の武士がふとしたことから女の魅力にひかれるという役どころを、
左団次が太い線で演じて評判をとり、その当り芸、杏花戯曲十種に
加えている。源五兵衛は、親戚の三五兵衛が千草屋の娘おまんと密通して
父親から勘当されたのを女とともに預かるが、おまんに恋してしまい
果し合いになる。が、おまんが「人の心が刀で斬れるか、
力で取れるか・・・」と自害し、源五兵衛もまた女心の強さを知って
後を追うという筋。※おまん源五兵衛の話は数多く脚色されているが、
これは並木五瓶の《五大力恋緘》の書き替えで、在来の歌舞伎手法を
生かし、心理的には新しくという鬼太郎らしい新歌舞伎。
狂おしい男心を、新内の曲節にのせて伝える演出も巧みである。
出典:新訂増補 歌舞伎事典
※おまん源五兵衛もの・・・
近世歌謡・浄瑠璃・歌舞伎狂言の一系統。
近世初期、薩摩の侍源五兵衛とおまんの情話を歌う歌謡が、
“高い山から谷底見れば おまん可愛や布さらす”を原歌とする
源五兵衛節として流行し、それによって西鶴は浮世草子
《好色五人女》巻五に<恋の山源五兵衛物語>を書き、
近松門左衛門は浄瑠璃《薩摩歌》を作ったので、これをうけて
源五兵衛・三五兵衛・おまんが主人公となる戯曲が生まれた。
吉田冠子らの合作浄瑠璃《薩摩歌妓鑑(さつまうたげいこかがみ)》
【宝暦七年】は、《薩摩歌》を利用したお家騒動物。
初世並木五瓶の歌舞伎狂言《五人切五十年廻(ごにんぎり
ごじゅうねんかい)》【寛政四年】は、曽根崎新地五人斬り事件を
扱った作として初めて主人公を源五兵衛・三五兵衛とするが、
これは犯人が薩摩侍だったことによる。
五瓶は同じ五人斬り狂言《五大力恋緘》でこの命名を踏襲し、
これを江戸上演の際には女主人公菊野を小万と改めた。
《薩摩歌》では三五兵衛の言号(いいなずけ)の名であるが、
音韻上おまんをも連想させる名である。本作は五人斬り狂言の
決定版となり、以後この系統の作は<五大力物>と呼ぶべきものとなる。
そのうち、五瓶作《略三五大切(かきなおしてさんごたいせつ)》
【文化三年】、四世鶴屋南北作《盟三五大切(かみかけて
さんごたいせつ)》が名高い。
出典:新訂増補 歌舞伎事典
おそらく、以前に書いた『薩摩訛』も角書きの箇所に“源五兵衛が
うらみの白刃”という文言が登場するため、ここで紹介しました
<おまん源五兵衛もの>に分類されるものと思われます。
本日は以上、戯筆でございました。
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